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Tとの決別。
敗戦によりTの経営状態も火の車になった。
とうとうTは、正式に系列メーカー入りを要請した。
S氏はこれを断る。
この大きなHS氏の転機については、終戦のショックが原因という見方が一般的であるが、他人の傘下に入ることに対する本能的な拒否反応と見るほうが納得がいく。
「そんなにおらんちが欲しかったら、売ってやるがな」S氏は東海精機の全株をTに売り渡した。
終戦直後の1年間、尺8を吹いて過ごしたと言われるS氏の優雅な失業者生活はこの金をもとでにしたものであった。
後年、Hを軌道に乗せたIT氏が見抜いたのは、そういうモノづくりの革新性であった。
感心するだけなら誰にでもできる。
I氏が名経営者たりえたのは行動力であった。
何が何でもS氏をTの下請けに取り込もうとしたのである。
I氏は独断でS氏の東海精機への資本参加を決める。
大幅に生産能力を拡張させるために増資させ、その判パーセントをTが持ったのであった。
S氏にすれば、より大きな仕事をするためには資本提供者が必要だと考えたのであろう。
但し、カネは出してもクチは出さないで欲しいというのがS氏の姿勢であった。
IT氏とて、S氏の気質は見抜いている。
大きなところで目を光らせておけばいいという計算があったのだろう。
HS氏を敵にさえしなければTの安泰につながるはずであった。
こういう出方をする人にS氏も弱い。
おそらく終戦という時代の大転換期がなかったなら、S氏はそのままTグループの一員で終わったかもしれない。
厳しい発注者は才能ある納入業者を育てるものだが、いつしかモノづくりの能力は発注者を上回るようになる。
発注者は厳しい品質とコスト圧縮を要求するが、実際にその課題を現場で実現していくのは、納入業者の方である。
それどころか、力をつけた彼らは、発注メーカーのモノづくりの実態まで見抜く頃、S氏はIT氏のことをこう述懐している。
HS氏も、そのようにしてTから何かを盗み、またその隙すら見抜いたのではないか。
「Iさんには世話になったよ。
アート商会で大儲けしたその気分が抜けなんだ。
俺にカネの重みを教えてくれたし、終戦になって東海精機を止めるときも言い値で買い取ってくれた。
その俺が今は同業の一人となって、向こうはトップ会社(T)の大御所……まったく人間の運命なんて、どこでどう転ぶか分からんものだわね」(「HSの人生」)K・GとHSの共通項このような眼力は、N自動車を再建したK・G氏にも共通している。
G氏は、ルノーや日産に籍を置く前、タイヤメーカーのミシュランに在籍し、工場でモノづくりの現場をマネージメントしながら自動車メーカーからの厳しい要求に直面してきた。
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